七夕の夜には祭りがある。
近くの神社の大規模でもないけど近くの人間なら誰もが知っている通称七夕祭り。
ほんとはもっとちゃんとした名前があるらしいが近所の人もましてや氏子さんでさえその名前を使わない。
七夕祭りには沢山の的屋が軒を列ねて参道を祭りの道にしたてあげる。
小さい頃から神社が遊び場だったボクは当然的屋がいても遊び場だった。
「こらボウズ、組み立て中は危ないだろ。向こういってろ」
口は汚いけど絶対に暴力で退かそうとはしない。そんな的屋の人達だったからついついなついてしまった。
的屋の人たちは年に一回のこの七夕祭りに店を出す。七夕祭り以外の日は別の祭りの場所にいって店を出す。
毎年毎年的屋の人達に少しずつ教わった。
的屋をよく思っていない人達のことも。
ボクが小学校にあがった頃、友達が出来た。なつきという的屋の若い夫婦の子供。
「なちゅきちゃん」
ボクはなぜかどうしてもつがうまく発声できなくてもちゅになってしまった。
「くすくす。たっくんなつきのこと呼べないの」
彼女はボクが無理矢理呼ぼうとするとそう笑った。だけどそれだと不公平だからボクも負けずとがんばる。
「じゃあなっちゃんはボクの名前いってみなよ」
「ふん。たちひとでしょ」
「違うよ、ボクたきひとだもん」
「おあいこだよーだ。それにたっくんはたっくんだもん」
「じゃあボクもなっちゃんでいいもん」
時にはけんかしてでも仲良かった。けんかしても一年会えなくなるから仲直りする。
けれど小学六年の時、些細なことでけんかした。お互い子供程素直になれなくて大人程わかってなくて初めてけんか別れした。
でも仲直りすればよかった。
次の年から的屋は数が変わってしまった。場所代のなんかと神社のなんかだとかだったけど小学校卒業程度のボクにはわからなかった。
あの小6の七夕からなつきには会っていない。
だから高校に入ると的屋廻りを決行した。
いつか織姫と彦星のように出会えることを信じて。
七夕の夜、星を見ながらおもう。
この空をなつきも見ているだろうか、と。
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