「?まり?」
バスを降りて少し歩いた頃だった。どこからともなく転がってきたらしいまりはボクの足に当たった。
「あっ」
小さな声が後ろから聞こえ、ゆっくりと振り返るとそこには藍色の着物の少女がたっていた。
「さくら、見つかった?」
少女の後ろから更に声がした。後ろは急な斜面になっていたがカサッと音がし陰が見えた。
そこにいたのは先ほどの少女と同じ顔髪をして同じ着物を纏った少女だった。
「ねぇれい。あそこにいるわ」
さくらと呼ばれた少女はれいと呼ばれる少女の裾を軽く引っ張る。れいはそれを気にしたふうでなくボクに定めた目線を固定した。
「あなた、何しに来たの?」
れいは静に聞いた。これが少女の顔か。否それは瞳の奥に揺るぎない決意を持った瞳。
ボクは答えられなかった。足は動かない。もし足が動いていたら逃げ出していた。けれど動かない。
「りす、飼っていたのでしょう?」
不意にさくらが話を進めた。
ボクは確にりすを飼っていた。それこそ毎日かわいがった。けれどちょっと油断した時に外に行ってしまった。一日探してようやく見つけたのはただの亡骸。
もう冷たく硬くなってしまった小さな小さな塊だった。
ボクは泣きながら埋めてやった。それから花を添えた。
「りすはあなたに死なないでって。一生懸命伝えに来てくれたの」さくらは一生懸命言葉を紡いだ。生きた人間に出来るのはここまでだから。
「それ、あなたはまりと思っているみたいだけどまりじゃなくてそのりすの魂だから」
れいは伝えることだけ伝えるとさくらの手を握った。それからボクへの視線をさくらにむけた。
「さくら、帰るよ。ボクたちの役目は終わりだ」
れいの言葉にさくらは小さく頷くとボクをみてそれからまりをみた。
「りすさん、さようなら」
ボクはその言葉に思わずまりをみた。あの、ボクが飼っていたりすがまりの中に見えた気がした。
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