あれはただの夢だと思っていた。
ただの怖い夢だと。
その夢は夕暮れ時の校舎で起こる。
紫の着物。散りばめられた花。黒髪。
怖い、怖い、怖い。
それだけの夢。
誰にも言わなかった。身の内にしまいこんでいた。それにそんな校舎も知らないとただの夢だと思っていた。
「瑞希。今度の日曜暇?」
「うん」
「じゃあ付き合って。あたしの母校文化祭なんだ」
「わかった」
友達に誘われなんとも思わず了承した。
それからあの怖い夢をみなくなった。だから私はしまいこんだまま忘れてしまっていた。
「今日は付き合ってくれてありがとうね」
「こっちこそありがとう。楽しかった」
「あっちょっと待って。この教室、二年の時の教室だわ。なつかしい」
友達が言いながらドアに手をかけた。
ドアが開いた瞬間真っ赤な夕焼けが窓の外に見えた。それが一瞬で恐怖をよびおこす。
次の瞬間、みた。廊下の奥から現れた紫の衣。
「瑞希?」
不思議そうな顔をした友達の横からも黒い髪の紫の着物。
私は声にならない声を出して逃げた。どこまでもどこまでも。
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