「獅戯…」
授業を終えた獅戯は軽く質問を受け答えすると職員室に名簿を返すべく向かった。
そこでこの世で腐れ縁というものを実感させる人物の一人である幸に出会った。獅戯は逃げるすべもなくそれでも嫌そうな顔をする。
「お前はもう少しましな顔をしろ」
獅戯の顔を判断していた幸が思わず思ったことを口にしてしまった。
「でなんですか?幸先生。わざわざ俺を名指しで呼ぶなんて」
幸と獅戯はあまり校内で会うことはない。まずお互いに職員室などよりも自分たちの準備室を拠点としている。次にお互い思うがままの行動であり、知り合い同士でじゃれあうタイプではないのだ。
「限がまた貧血起こした。たぶんあまり食べてないんだろ。家に戻せとは言わないが少しは保護者らしく目を回しておけ」
「限は?」
獅戯は態度を変えないよう極力短く促した。もっとも長年の付き合いがある幸にはその行為はばればれだが。
「今は保健室で寝かしている…」
「幸先生、これ職員室お願いします!それでは」
幸の声を遮り、名簿を無理矢理幸に渡し、獅戯は保健室のほうに早歩きで急いだ。
幸はそれら一連の慌てぶりが見たく、獅戯をわざわざ待ち伏せし話したが無理矢理渡された名簿に少しの不満を抱いてみた。
「はっ親バカだねぇ」
誰にも聞こえないような小さな声で幸は一人呟いた。それから小さく笑い、手元の名簿を返すべく職員室のドアに手をかけた。
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