また、街が滅んだ。
「皆こうやって消えていってしまうのね。ナニモノも抗うことなく…」
何もないただ荒れ果てた大地の中に二人の姿。水方はただ呆然と何もなくなった土地に以前の街の姿を重ねて静かに言葉を紡いだ。別にそれはもう一人の、風音に向けられた言葉でもなかった。
風音は地面に片膝をつき、風を聞いていた。
「聞こえた・・・」
「え・・・」
ふと風音が声を出した。耳に手をあて、更によく聞いているようである。特にそちらに意識をしていなかった水方は小さな言葉で答えた。
「風の終わり、ここから南のずっとずっと先だって」
風音は満足そうに言葉を紡ぐ。それに小さく体を丸めるように水方が答えた。
「そう」
ここは風が強く、普通の人間であれば寒いと感じる。けれど二人にとってそれは感じえない感覚。それをわかっていて風音は言った。
「行こう」
それは何のためらいもなくただ二人だけに紡がれた言葉。しかしそれに水方は戸惑いを隠しはしなかった。
「でも、」
一言否定の言葉を言おうとし、言葉を区切った。それでも意を決したようにまたすぐ言葉を紡ぐ。
「またこうやって、皆亡んでしまうのよ」
それは普段あまり感情を出さない水方には珍しい感情の言葉。
「うん、知ってる」
けれど風音にはそんな水方も水方であり、慣れたようにそれを肯定した。それからやはり一呼吸おいてまた続ける。
「会っていた人が皆いなくなっちゃうのはすごく悲しいと思う。けど、・・・一人で死んでいくのはもっと悲しいの。一人だって思って考えて、それでも一人で。だから私は行くよ、亡んでしまうとわかっているから行く」
風音はまっすぐな瞳でそれらを語った。それは風音が経験したこと。自分自身で経験したからこそ風音はそれをやめようとするつもりはなかった。そして水方もただ、一人で死んでいった身だった。
「そう。そうね、一人は寂しいわ」
それは水方の気持ち。けれどそれは風音の「行こう」という言葉の答えでもあった。
そして二人は静かに南へと、滅びの地へと向った。
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