「雨、だ」
緑咲はふと呟いた。傍らで寝そべっていた火呼は緑咲の呟きを聞いて何気なく空を仰いだ。
「おい、晴れているぞ?」
仰いだ空は真っ青で少しだけ雲が浮かぶ程度のとても降りそうな天気などではなかった。そして火呼は思ったことをそのまま口にする。その言葉に緑咲は今まで宙にあった視点を火呼へと向けた。
「空じゃ、ないよ」
緑咲はただ一言感情のない言葉を紡いだ。それからまた視点を火呼から逸らしどこか遠くを眺めた。それからひざを丸めて、小さくなる。そして言った。
「自然が・・・泣いているんだ」
その目は遠い。火呼はその視線の先を追おうとしてやめた。緑咲は視線をそのままで更に言葉を紡いだ。
「あそこはもうすぐ終る。自然を壊しているから。自らの過ちに気が付くことなく滅んでいく」
その言葉は相変わらず感情のない言葉。火呼はなんとなく緑咲の目が揺れたように見えた。だから声をかけた。
「行くか」
火呼のその一言に緑咲の視線は心は全ては火呼のもとへと帰る。それを確認した火呼は更に付け加えた。
「そこに今日中には着きたいな」
それは同意の言葉。ほんとに最小限の言葉を緑咲は正確に読み取り、そして火呼には気づかれないように静かに笑みを浮かべた。
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