「織姫、今日は一年に一度お美しいあなたにお会いできる」
「ねえねえお母さん、今日は織姫と彦星会えるかな?」
「そうねえ曇っているからどうかしら。晴れるといいわね」
「織姫さま、何をしていらっしゃるんですか?」
「何って見ての通り下界の様子見。のう、どうして曇っていると会えないのじゃ。妾たちには関係なかろうに」
「あぁでも下から見ると雲に覆われて見えないそうですよ。星の周りを覆っている雲ですので確かに私たちには関係ありませんけど。それにしても織姫さま。そろそろお支度を始めないといけませんわ。一年に一度だけなんですからめかし込まなくては」
「ふむ。今日はきっと化粧がなじまん。下界の期待通りに曇っているので会えない、としよう」
「織姫さま、お言葉ですけど・・・たぶんこの天気では夜には少しの晴れ間が見えますよ」
「・・・。では雨を降らせばいい。ついでに天の川も洪水にすればよい。我ながらいい考えじゃ」
「・・・織姫さま・・・。我が主であるとはいえ・・・」
「織姫。いつお会いできるか。あと半刻だろうか、いやそれではまだ早い。一刻か・・・」
「織姫。来ない・・・」
「それにしても彦星さまは不憫なこと。前に出かけること自体忘れた織姫さまを待ち続けて三日御晩寝ずに待ったため、氾濫した天の川に流されかけたとか・・・せめて文だけでもだしたほうがよろしいのか・・・」
「まあ織姫さまが出かける気になり、川岸で会えればそれはそれ。ほっておきましょう」
「姫ー、姫ー、姫ー」
今日も彦星の声が夜空に木魂する。
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