「…」
キヨカは一人墓前で手を合わせた。
未だに信じられなかった。けれど現実を確りと受け止めた心もあった。
その微妙に冷めたような心がまるで治りかけの傷をえぐるように、新たな傷を作っていくようでこの心をどうしてしまおうと考えた。
後を追うことは出来ない。それが解決策になるならばきっとキヨカは迷わなかっただろう。それからそれで誰も心を痛めないなら。
しかし幸いにしてキヨカは知っている、解決策にならないことも、自分が死ねば心痛める誰かがいることも。
ただキヨカは考える。彼が姿を消した時に、知らせが来たときに。キヨカはその時どこかで彼の死を感じていた。もし彼の死を思わなければ未来は変わっていたのかもしれないと。自己満足な自責の念が静かに体を縛り上げる。
「一緒にいられて楽しかったわ」
一言だけ、この言葉は言わずにはいれなかった。それだけ伝えてなんとなく落ち着いた気がした。
「キヨカ…」
「ユキ兄さま…」
まるでタイミングを合わせたようにユキは現れた。もっともユキのことだから合わせたのだろう。ユキはそういう人だ。ヒトを読むことにたけている。
「行きますか?」
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