静かに迫る。
小さな小さなその生命さえも奪う破滅。
「水方ちゃん」
緑咲は教室でふと水方を呼んだ。予感だった。何かが来る。一刻も早く確認しないと。気だけ、何かわからない焦りが渦巻く。
そんな考えは微かに顔に表れていたらしく水方は正確に読み取った。
「私はどうしたらいい?」
水方は単刀直入に聞くことにした。事によってはすぐに行動を要する場合がある。
緑咲は自分よりも正確にこの思いを読み取ったのではないかと少しだけ考えた。それから更に考えを巡らし一度下を向いてから静かに水方の目を見た。
「水を…地脈を知りたい。あと…雨の動き」「わかったわ。上に行きましょう」
水方は言い終わると回りには目もくれず先ほど上と示した屋上を無言で目指した。
屋上の重い錆びたドアを開けると微かに雨の匂いがした。
「気づかなかった。ここは雨が破滅を呼び起こすのだわ」
「やっぱり…そうなんだ」
本当は確かめたかった。これは違うのだと。これはまだ破滅の前の印だと。けれど水の化身である彼女が言う。雨もまた水の化身。外れることなどない。
「ここはこんなにも早く滅ぶなんて」
ここに来て、まだ一週間も経っていない。最初の読みから変わってしまった。これも破滅が破滅を呼んだせいなのだろうか。
「緑咲…。私はこの雨を操ることは出来る。けれどしないわよ。ひとつの歪みはやがて大きな歪みを引き起こすことがあるのだから」水方は緑咲の方に背を向けて言葉を紡いだ。それは一瞬だけ緑咲の頭をよぎった言の葉。「大丈夫。ボクもわかっているから…わかってみせるから」
ただ涙が溢れた。それを察した水方は緑咲の方を向きそれから迷わず抱き締めた。
PR