「孝史・・・おかえりなさい」
それはまるで当然のような日常。けれど、私には程遠かった日常。
「ただいま」
孝史はさも当然のように答える。こうしてもう数週間が経つ。さすがに彼自身慣れてきたらしい。
最初はさすがに戸惑っていた。私自身は今でも混乱することがある。
そう、もう一人の私が頭の中で警告する。
『終わりは必ず来るわよ』
『あなたは所詮、お父様の駒。逃げられはしない』
窓の影に映る私が忠告する。だから夕方の窓辺は嫌いだ。自分自身の姿が反射する。それでも、孝史が帰ってくるのを見るために必死に耐えた。
そうして私は何も出来ないのだ。私に出来ることは人を殺すこと。お父様に従うこと。
この生活は始まり自体が突然だった。ただ、見られた。私自身が終わりだと思った瞬間、孝史は始めた。私との生活を。
終わりはいつくるのだろうか。もしかすると終わりも突然なのかもしれない。
違う。
終わりは突然、なはずだ。お父様がきっと見つけ出してくる。それはきっと私たちにとっては突然。これは予感だ。きっと、その時私は大切な何かを失う。もしかすると私自身を。
けれど、そうだからこそ、私は今ここで生活している一つ一つを大切にする。それが今の私に出来ること。
「おかえりなさい、孝史」
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