水方はふと空を見上げると呟いた。
「綺麗…」
「えっ?空?」
その日の空は曇天でけして綺麗とは思わないが他がみえていない風音は不思議そうに問いかけた。
それを水方はクスッと笑った。
「違うわ。ほらあそこ」
水方は空の一点を指さしてみせた。それにやっと風音があぁと同意する。
「蝶だったのね。一羽だけ、」
風音はあわてて言葉を引っ込めた。この人は私と出会う前はずっと一人だった。
私の一人の時はこの人と比べ物にならないくらい短いのかもしれない。
「風音、あの蝶は一人でいることで空と仲良く出来るのよ。見て。きっとあの蝶は青空では目立たなくなっているわ。空が曇天だからこそ映える。空と仲良く出来るのはすてきよね」
水方は私がいいかけた言葉をなかったかのようにするためか空を見上げた。私も真似をしてみる。
空は相変わらずの曇天で、空には一羽の蝶が誇らしげに舞っているようにみえた。
それは水方と出会って間もない頃。
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