限は両親が死んで、獅戯に拾われた子ども。
あれからもう何年も過ぎた。
「限、明日は俺がいる数学準備室に来い」
留守電には一言そんな言葉が入っていた。
声や内容でわかるとはいえ、どこにもその主である獅戯という言葉はない。
どうしようか、と少しだけ戸惑うも結局次の日限は律儀に彼女の通う高校の数学準備室を訪れる。
いつものように無言でそっとドアを開ける。
ここにいるのは獅戯だけではない。他の教師もいる。もっともそのほとんどの教師はここよりも教室や職員室で見かけるのだが、限はなるべく他の人間に会いたくないと考え用心深い。
幸い、その日は誰もいなかった。呼び出した当人である獅戯さえもいない。考えてみたらまだ早い時間帯だ。
授業が始まるまでに30分もある。
なんでこんなに早く来てしまったのだろうと考え、それから獅戯の使っている机の椅子に座り込む。
獅戯の椅子は無事だが、机は決して整っているとはいえない。それでもそのなかに絶対に綺麗な箇所がある。
それは一つの写真たて。写真自体は入っておらずポストカードが収まっているが限は知っている。だからそれを動作に表した。
ゆっくりと写真たての額を取り、ポストカードを取り出すとある一枚の写真。それは限が獅戯と出会って暫く経った頃に撮られた写真。
獅戯と限、そして冴晞と幸。四人が写った貴重な一枚。これを獅戯は大事にしている。
そして限はこの写真を見ながら、数学準備室のなかで一人、懐かしそうに少しだけ笑みを浮かべた。
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