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「ねぇ。ほんとに誰にも干渉されずに遊べるのかな?」
少女は少年と手を繋ぎながら考えた。事の起こりは数時間前。少年と二人での帰り道に見つけたショップ。そこでショップの主アオイと少年は契約を結んだ。
「さあね。人間じゃないって言っていたからできるかもよ。店だってこの間まで何もなかったんだし契約の紙も普通の紙じゃなかった。どちらにしろ明日の朝、学校行く前に寄れって言われたんだからそのときに行けばわかるんじゃない?」
「そうだね」
少女をみて好奇心旺盛な顔で結論を出した少年に少女は一抹の不安を消し去り、一緒に笑みを浮かべた。それは二人とも年相応な笑顔。
「そろそろ二人が来る頃ね」
「あっほんとだ。じゃあアオイさん、ボク地下の大きな水晶から―」
チリンチリーン。ドアが外側から開かれた。そしてそこには昨日の少年と少女がいた。
「おはよう」
アオイがそちらを向き挨拶すると少年は無視し、少女は少年の後ろで頭だけを下げた。
「で?どうやって遊ぶ時間くれるのさ。さっさとしてほしいね。学校の時間もあるんだからさ」
少年の淡々とした物言いに軽く笑みを浮かべながらアオイが答えた。
「そうね。ではあなたたちは特別に地下に連れて行ってあげましょう。さあついていらっしゃい」
アオイは言い終わるとヒロが先ほど用意していたランタンを持ちながら、地下への階段を三人で下っていった。そして少しいった部屋を空けるとそこには大きな光り輝く鉱石があった。
「何これ?宝石?」
「えぇ。水晶よ。まずは説明しておくわね。今から一日間、あなたたちは空気のようになるわ。自分たちから接触しなければ誰も気にもとめない。誰かと接触しても干渉されなければ、会話をしても相手には残らない。だから―」
「誰にも干渉されない。確かに貴方の言っていることは正しいんじゃない?で?どうやったらいいの」
アオイは相変わらず口元に笑みを浮かべながら答える。
「では二人とも片手でお互いの手を繋いで、もう一つの手を水晶に触れて。そう、それだけよ。なるべく二人で一緒に行動して手も繋いでいてね。それと朝までにはここに帰ってきてちょうだい」
そういい終わるとアオイは水晶に向かって日本語ではない言葉を発する。それから水晶に手を当てると水晶は更に輝きを増して少年と少女を包み込んだのだった。
「すごいや。誰も目もくれない」
少年は喜びに浸っていた。時間は九時十五分を回ったところ。オフィス街を歩いたり、警察署の前を歩いたりしたが、二人とも注意や補導されることはなかった。
「ほんとに遊べるんだね」
少女はうれしそうに少年に微笑んだ。それから二人は仲良く手を繋ぎ色々なところを廻った。
ショップへ戻ったがドアのベルは音をたてることはなかった。
「おかえりなさい」
「あれ?なんで貴方にはわかるわけ?」
今までの経験からこっちから話し掛けない限りはみな干渉することはなかった。当然ここもわからないのだろうと万遍の笑みでいたのだがアオイは違った。したがって少年は反射的に驚きと疑惑の声で質問した。
「あぁ。それは私が術をかけた者だからよ。じゃあ二人ともまたあの地下へ。最初と同じように水晶に手を当てて」
二人はそのままアオイの言われるままに最初と同じ状態をとった。そしてアオイはまたもや何か言葉を発した。
「さあこれで終わりよ。どうしっかり遊べた?」
「うん」
アオイの問に初めて少女が答えた。
「そう。それはよかったわ。じゃあ上に行って紅茶でも飲みましょう」
「はい。どうぞ」
「…ありがとう」
紅茶をだしたアオイに小さな声で少年が軽くはにかみながら答えた。
「さて、対価をもらわなくてはいけないわね」
「何もらうの?確かに出来ることならやるけどさ」
一瞬少年はびくっとしながらそれに刃向う。アオイはそれも楽しそうに眺めながら少年と少女を見据えた。それから少年に視点をおいて答えた。
「あなたには、そうね。学校と思い入れが強いようだからその胸の校章バッチをいただきましょう。彼女からは…あぁ。髪につけているそのリボン。プレゼントなのね。それを戴くわ。どう?それくらいなら大丈夫でしょう?」
少年と少女は顔を見合わせるとそのまま少年は校章を、少女はリボンをはずし始めた。
「言うのもなんだけどこんなのでいいわけ?1日遊ぶ時間もらったのに」
少年の問に少女もアオイを見ていた。
「えぇ。充分よ。私は思い入れの強いものがほしいの。あなたの校章は学校、そうね彼女も通っているからかしら、そこに対する思い入れ。彼女の場合はプレゼントの相手、つまりあなたになるのかしら?に対する思い入れ。さあこれで仕事は終わりよ。さあ時間が戻った今、それはここへ来た時間。あなたたちは学校へ行く時間だわ」
「…ありがとうございました」
少女がアオイに向かって小さくうつむきながら言った。そして二人はランドセルを背負い、ショップのドアを出ようとした。そして出る直前、少年がアオイに言った。
「ありがとうございました」
それは照れて顔を真っ赤にしながら言った少年の言葉。
アオイはもう会うことはないであろう二人を見送りながらまた、笑みを浮かべていた。
その日、少年と少女はいつもと変わらない日常を過ごした。そして仲良く手を繋ぎながらの帰り道。最初に気づいたのは少女だった。
「お店、なくなっちゃったね」
「あっ本当だ。…でも校章もリボンもなくなった。夢じゃないよ」
少女のどこか寂しそうな声に少年は答えた。そして自分に言い聞かせるように付け加えた。
「うん」
少年の言葉に少女は少しだけ嬉しそうに一言、答えた。
「ショップと少年」の続きです。大分遅くなったけど書いてみましたw
ついでにこの中のアオイとヒロは知っている人のみRD「曜日ショップへようこそ」のお二人ですv