「あ~よく寝た」
少年は大きなあくびをしながら闇の中、ゆっくりと体を起した。そこへ蝙蝠がすかさず声をかける。
「寝すぎですよ、セイさま。一体どれくらい寝ていたと思うんですか?」
そんな蝙蝠をセイは横目で流して、少し離れたところにある木箱の蓋に注目し、そこへ向った。寝起きのせいかふらふらした足取りのセイはそこへ着くなり、急ぎ足で蝙蝠のいる先ほどの距離を引き返した。
「イチ!母さまと父さまのだんすぱーてーってなんなんだよ!」
蓋に貼ってあった少し色あせた紙を蝙蝠イチへ突きつけてセイは怒鳴った。
「はぁ。セイさまよく寝てらしたからその隙に、いえ、起されてはかわいそうと出かけられました」
イチは事実を言おうとし、セイの目の怖さに途中で言葉をかえる。
「それ、いつ?それから・・・ボクのご飯・・・」
セイは相変わらずの怒り具合で前半言いつつもお腹のすき具合からだんだんと語尾が戻っていった。
「え~そのメモ紙は大体人間で換算して10年くらい前かと。本国に行かれたのでもう暫く、または二度と戻らないかも…というのは冗談ですけど。ついでにご飯もありませんよ。食料は腐ってはいけないと私が頂きましたから」
「そ、そんな~」
セイは食料について聞くとべったりと床に座り込んでしまった。それにはさすがにイチも慌てて対応する。
「でもセイさま新鮮な食事をするためにはやはりご自分で狩に行かれたほうがいいです。あっ私セイさま好みの子を選んできます」
そういうかいなかイチはすぐさま飛んでいった。セイはとりあえず誰もいないこの部屋をゆっくり観察した。そして一角に埃が積もりに積もったところを発見した。それはセイの日記帳。それをおもむろに掴み、読み返すことによってセイは過去をようやく取り戻した。
「セイさま~。いました、セイさま好みのご飯」
そこへ蝙蝠は帰って来た。それを聞いたセイはそのまま無言で部屋を出た。
その日は満月の夜だった。
月明かりが目立つ夜の空に一匹の蝙蝠と黒いマントを羽織った一人の少年吸血鬼が飛んでいた。
食料である人の血を求めて。
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