「火呼ー!今日という今日は許さない、私のお弁当返せー!」
風音は教室のドアを開け放つとそのまま隣の教室に飛び込んだ。窓際の方には最近は見なくなった鳥たちにご飯粒を与える緑咲の姿があるだけだった。それも、風音のあまりの勢いに鳥たちは一斉に空へと逃げていく。
「緑咲、火呼は?!」
風音の怒った顔に恐れをなした緑咲は指だけで窓の外を恐々と示した。
「そこから逃げたのね!」
風音はまさに自分も追いかけようとして窓際に向かうが声が響いた。
「風音!」
凛とした声は教室の外、風音が入ってきたドアから聞こえた。
「水方ちゃん!」
窓際で恐々と様子を窺っていた緑咲はさっさと声の方へと走っていった。
「緑咲がせっかく鳥と食事中だったの邪魔して・・・・火呼ならさっさと外で男子とサッカーよ。つかまるはずないじゃない・・・・さあほら、一緒にお昼食べましょ」
水方は呆れたように言いながら手にしていた重箱を見せた。それは明らかに二人分以上の量。
「緑咲、あなたもどうせ鳥にご飯をやってしまっているのでしょ。一緒にこれを食べてちょうだい。全く毎日飽きもしないで・・・・」
「水方ちゃん、だーいすき」
風音は水方のところまで歩み寄るとしっかりと抱きついた。
水方は毎日、明らかに自分が食べる量よりも多い量を重箱に詰めて持ってくる。それは食べる相手がいるから、無駄にならないと知っているからする行為。
今日も屋上には重箱のお弁当箱とそれを取り囲む幾人かの人影。
「やっぱり水方ちゃんのお弁当、おいしい」
「うん、おいしいよ、水方ちゃん」
それから屋上のドアが開く。
「からあげ、もーらい」
火呼が手で重箱の中のからあげを摘まんで口に入れた。
「結局はこの人数ね」
水方が笑う。
本当に一人で食べていたのはいつのことだろうか。最近はそんな記憶など覚えが無い。
水方は考え、それから更にくすりと笑った。
そう、一人で食べていたのは生きていた頃なのだと。
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