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朝、いつもと違う声に起された。
「火呼、起きて。学校行く時間だわ」
静かな、それでいてどこか冷たい。俺にとって気持ちのいい声を出す。
「おはよう、水方」
布団で寝返りを打ちながらしっかり水方がいるほうへと顔を向ける。それから、
「それ以上やられたら緑咲にあることないこと吹き込むわよ」
俺は思わず出しかけていた手を引っ込めた。しかしそういった隙のない水方が好きだ。もっともそれ以上何かやろうとすれば本当に緑咲に色々吹き込みそうなので無言で布団を出た。
緑咲は純粋だ。その純粋さは化身となり体が成長を止めた今でも変わらない。けれど俺を含めたほかは違う。化身としても心は成長する。身なりは子供でも十分に表情が変わる。
「なあ水方、緑咲のことどう思う?」
俺はベッドから廊下へ向いながら一歩後ろを歩く水方に問いかけた。
「どうかしら?火呼の意図とすることがわからないから答えられないわ」
相変わらずすっとかわされてしまった。こうなっては何かこちらから情報を加えるまでは何も言おうとはしない。
「で、今日緑咲は?なんでいないし、水方が俺を起こしに来たの?」
「緑咲は一足先に学校よ。ほら今の学校、うさぎがいるでしょう?早く行けばうさぎに餌をやっていいと言われたらしくて喜んで早起きしていたわ」
俺はその光景を想像して思わず立ち止まってしまった。
「あら、どうしたの?」
「いや、似合っているなって。うん、あいつはあいつのままのほうがいいな」
俺は妙に納得してうなずきながら水方に語ってしまった。
「ふふ、火呼ったら今日は随分と大人らしいと思ったけれど―」
「じゃあ、水方。好きだよ」
「あら・・・わ・・・」
「火ー呼ー!朝だよ。もう枕なんか抱えてキスしそうな体勢。何の夢みてたの?」
オレは緑咲の声で目が覚めた。それはもうぱっちりと。
「うるさいなー。朝ってわかっているよ。すぐ起きるし」
「ちょっとー、二人とも早く起きてよー。早くご飯食べて学校行かないと遅刻するでしょー」
ドアの向こうから朝から元気な風音の声がする。そしてダイニングでは水方がいつものように朝食の準備をして待っている。たぶん行ったら「おはよう」って言うんだろうな。毎朝と同じように。
最初、オレは緑咲以外と一緒に時をすごすつもりはなかった。けれど、誰が言い出したか忘れたけれど、こういう四人の暮らしも悪くない。そんななかで見せた夢は夢で終る。それは望んだわけではない、きっと未だ残るヒトの時の記憶が生み出したもの。
「ほら火呼、行こう」
「あぁ」
いつかオレたち自身が亡ぶまで、この生活が続けばいいとどこかで思った朝だった。
「まだ、起きていたの?」
夜、カーテンの隙間から見えた小さな星を今でも覚えている。
あれはまだ、人であった頃。それから、確かあの星を見た日はお父さんやお母さんと別れる前日。
昼間から昼寝をしていて夜、なんとなく眠くならなかった。だから空を見ていた。空、といっても窓はカーテンが閉まっていていつもなら見えない。ただ、その日は本当に偶然に少しだけ小さな隙間が見えていた。そして小さな小さな星を見ていた、ただぼんやりと。
次の日、あの森のなかの建物に連れて行かれて、お父さんやお母さんに会った最後の日でもあった。
最初はそこの空間にも馴染めなくて、両親に置いていかれたという気持ちが強くてただただ泣いていた。それからあの小さな小さな星を思い出した。あのカーテンの隙間から見えた星は一人ぼっちだった。そしてあの頃のぼくも一人ぼっちだと思っていた。
けれど、そっと夜ベッドから抜けた時、空にある星は一人でないと知った。それから更に暫くしてぼくも一人でないことを知った。
「ねぇ火呼、学校行ってみたいんだ」
それは緑咲が言ったさりげない一言。そうさりげなく言おうと緑咲は努めたのだろう。けれど火呼にはわかってしまった。それが本音だと。だからこそ反対などできるはずもなかった。
「いいぜ。でもさ、何でお前はそんなとこ行きたいんだ?」
ただなんとなく同意するのも微妙だった。そう考えた火呼はなんともなしに問を付け加える。特に考えたわけでもなかった。ただ思った。
「・・・友達を、ね。いっぱい作ってみたいんだ」
少しはにかむように緑咲は小さな声で答えた。